【森を守る人々】丁寧な植生調査と土地に合った苗木づくりで、森づくりを支える―林学博士・西野文貴先生

様々な立場の方が、「森を守ろう」「未来に美しい森を残そう」とご支援くださっているプレゼントツリープロジェクト。そんなプレゼントツリーに関わる人々へのインタビュー連載企画【森を守る人々】、今回は「Present Tree in くまもと山都」にて植生調査と樹種選定を担当してくださった、株式会社グリーンエルム代表取締役社長であり林学博士の西野文貴先生にお話を伺いました。

植生調査に裏付けされた、多種多様な樹種を植える森づくり

―プレゼントツリーと協働することになったきっかけを教えていただけますか。

「東日本大震災の後、東北の被災地で森づくりに携わっていたんです。そこでプレゼントツリーの現・事務局長の石森さんと出会いました。グリーンエルムの本拠地は大分県なんですが、2020年に熊本県山都町でのプレゼントツリーの森づくりが決まったときに、石森さんが僕のことを覚えてくださっていて、『九州の森づくりだからぜひ一緒にやりませんか』と声をかけてくださって。その後、理事長の鈴木さんにもお会いして熱い想いを伺って、普通のNPOとは違った形で植樹に取り組んでいらっしゃるんだなと感じました。北海道から九州まで、その土地の様々な状況を踏まえ、いろんな人に意見を聞いて、それを咀嚼して地域に合わせた形でアウトプットするというのは、なかなか大変だと思うのですが、とても価値のあることだと思います」

2021年4月に行われた、第一回植樹イベントにて。西野先生は中央にいらっしゃいます

―「Present Tree in くまもと山都」では、実に31種類もの樹を植樹しています。こんなに多様な種類を植えるというのは、プレゼントツリーでも初めての試みでした。どのような森づくりを想像して、これだけ多い樹種を選定されたのでしょうか。

「その地域に合った樹種を選ぶためには、まず植生調査を行います。調査の対象地は神社のまわり、いわゆる『鎮守の森』という昔から自然が残されている場所です。この近辺では、スダジイ、アカガシなどのどんぐりの実をつける仲間がたくさん見られたので、このあたりの植物を今回『高木層(こうぼくそう)』となるように設計をして、樹種を選定しました」

アカガシ、シラカシ、タブノキ、ヤマザクラなどの多様な苗木が準備されます

「森の設計は、たとえば地球上から人間が一切排除されたときにどんな森ができるかという『潜在自然植生』の理論を駆使して行います。こういう潜在自然植生の森をつくることのメリットは、最終的に人の手を入れる必要のない森ができるということ。自然の中で成立している森なので、もし森の中で雷が落ちて木が倒れたとしても、その周りにある木々たちから種が落ちて、自己修復してくれるんです。人間側にとっては手がかからないというメリットなのと、自然界にとってのメリットは、その地域の動植物たちが各木々に生育するので、その地域の生態系、生物多様性に貢献した森が創造されます。もちろん多様な樹種を選ぶということも、生物多様性に直結していますね」

―先ほど「高木層」という言葉が出ましたが、もう少し詳しく話していただけますでしょうか。

「森の中で、一番高さがあるのが『高木層』。続いて『亜高木層』『低木層』、一番地面に近いところで草まで含めて、森林は4層構造になっています。こういうミルフィーユのような構造になった森のほうが生物多様性が豊かで、自然災害も減らすということが知見的にもわかっています。今回の森づくりでは、この4層構造をつくることを想定して樹種選定をしています。成長の仕方も高木は早くて低木はゆっくり…というように樹種によってバラバラなので、そういう成長の多様性というのもきちんと将来見て行くと、おそらくプラスの効果になって出てくるんじゃないかと思います」

植樹イベントでは、西野先生から森のお話を聞く機会もあります

「プラス、いわゆる先駆種、パイオニア植物とよばれる種類も植えています。それは人間でいうかさぶたみたいな役割をしてくれる植物で、最初にちゃんと地面の中も作ってくれるので、その樹を植えることで虫や他の動植物が来るんです。そういったパイオニア植物できちんと地面を慣らしながら森づくりを進めていくというのも、『Present Tree in くまもと山都』の特徴ですね」

森づくりに欠かせない、苗木のこだわり

―西野先生が代表を務めている株式会社グリーンエルムでは、植生調査のほか苗木の出荷も行っています。「Present Tree in くまもと山都」で植えている樹種も、グリーンエルムさんから仕入れています。苗木づくりのこだわりを教えてください。

「我々の苗木のこだわりは、根っこをしっかり生長させること。やはり植物は根っこが命ですから。我々専門家が植生調査をきちんと行ない、『こういう樹種が必要だ』と思った苗木をきちんと育て、納品するという一連の流れは、グリーンエルムだからこそできる素晴らしいことだと思っています」

―2021年に植樹した第一協定エリアでは、まだ3年しか経っていないのに、人の背丈を超すほど大きくなった樹もありました! もともとの豊かな土壌に加え、グリーンエルムさんで真心こめて育てていただいた苗だからこそ、元気がよく生長も早いのですね。

2021年に植えた第一協定エリアの苗木。こんなに大きくなっています!

地元としっかりつながったプレゼントツリーの取り組み。森の現場以外でも、連携していきたい

―プレゼントツリーという取り組みに対する印象はいかがでしょうか。

「プレゼントツリーの活動でいいなと思うのは、地元の森林組合ときちんと連携していること。よそ者がその土地で何かをやるとなったときに、地元の人のきちっとした協力がないとうまくやれないものですが、プレゼントツリーの皆さんはいろんな関係者をいい意味で巻き込んでいらっしゃるんだなという印象があります。森林組合さんの中には、スギやヒノキしか植えないというような考えを持っている方もいらっしゃると思うのですが、そこにもきちんと説明をして、何のために広葉樹を植えるんだというところの通訳が出来ている。僕自身も植樹イベントに参加させていただくのですが、『個人も企業も巻き込んで、みんなで森を創ろう』という想いをしっかりと感じられます」

―これからプレゼントツリーと一緒にやっていきたいこと、期待することがありましたら教えてください。

「山都町の森もこれから生長して、10年後にはきっと10mくらいの森になるかと思うので、とても楽しみです。これからも植える場所をどんどん増やしていってほしい。ただ、苗木の生産者というのは全国でも減少傾向ですので、もし必要であれば他の地域でもお力になれたらと思っています。たとえば種を送ってもらって、それを我々が育ててお返しする『森の里親制度』みたいなことも、今後一緒にできたら面白いな…とか。あとは森の現場だけでなく、もうお考えかとは思いますが、たとえばシンポジウムみたいなものを開催するとか、いろんな人たちと意識を共有していくことも大切ですよね。そういうときに私がお手伝いできることがあれば、ぜひご一緒できたらと思っています」

―ありがとうございました。森づくりだけでなく今後の協働にも面白いアイデアをいただき、とってもワクワクしました! これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

とってもお話の面白い西野先生。何度話を聞いても、西野先生と森の世界へグイグイ引き込まれます! 各地での講演をはじめ、ラジオパーソナリティのご経験もお持ちです。そんな西野先生がプロデュースする「里山ZEROBASE」では、人と自然の距離をもっと近くするため、里山を保全し活用するノウハウを全国へ発信しています。参加型のイベントも多数開催。InstagramYoutubeでも情報発信中なので、ぜひ気軽にチェックしてみてください♪

西野文貴さんプロフィール…東京農業大学林学専攻修了、林学博士。㈱グリーンエルム代表取締役社長。「森づくりビジネス」を積極的に展開、ラジオ等でのわかりやすい発信も老若男女から好評を博している。
https://satoyamazerobase.com/
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