世界有数の森林大国
四季折々の風情がある日本。その幸せを感じる時、豊かな自然の風景を思い起こす事もあるのでは…?それは海に囲まれ山々に抱かれ穏やかな風が吹く国土の中で、多様な生物が棲み処とする豊かな森が育まれてきたからこそ。日本の国土面積に対する森林の割合は約67%。実は世界有数の森林大国であり、G7の中ではトップの森林率を誇る国なのです。
そんな素晴らしい森の一部が、危機に瀕している現状をご存知でしょうか。過疎化が進み、それゆえに林業従事者が減少し、荒廃する森林。気候の変動などに起因する、森林災害の増加。そうした理由などが相俟って、維持できずに放棄される森が増えているのです。
人間にとっても欠かせない”森”
森林が環境や社会に対して担っている役割は、実に多岐にわたります。CO2を削減し地球温暖化防止に寄与すると共に、酸素の供給源として機能していること。多様な生物を育む生態系の維持と循環。山崩れを防ぐなど、災害防止の側面。また、森が土壌に蓄え長い時間をかけてろ過し滋養に富んだ水が、川となり海に注がれ、豊かな漁場の創出にまでも貢献しています。森は、人間の生命にとっても不可欠な存在に違いありません。それゆえにその再生は、都市生活者にとっても無視できない課題なのです。
そうした課題に向き合っている組織のひとつが、認定NPO法人環境リレーションズ研究所。その特徴は、森林再生活動を通して、森のある地域と都市とのつながりを生み出し、交流人口を増やすことによって、森だけでなく地域全体を元気にしていくことにあります。都市にいながらにして、自然保護や里山再生の機会を得るしくみ作りを実現しているのです。今回ご紹介する「Present Tree」と「里山BONSAI」は、その一翼を担う具体的にしてユニークな活動です。
人生の記念日に樹を植えよう!
「Present Tree」は、荒廃里山や被災林など森作りが必要とされる地域への植樹による森林再生活動。その名、そして「人生の記念日に樹を植えよう!」との合言葉が示すとおり、記念樹を植えて、それを大切な人へのプレゼントとし、里親になってもらうしくみです。植樹された樹は1本ごとに識別ナンバープレートをつけ、番号を記載した植林証明書を発行。各地での活動は地元行政・林業従事者との10年間の協定に基づき、植えた樹は協働先により10年間しっかりと保育管理されます。
たとえば、結婚記念に新郎から新婦へ。あるいは、出産祝いに祖父母から孫へ。贈り、贈られたことにより、森林の現状や再生の重要性に関心が生れることが、すでに森林保全や環境保全への第一歩になっていると、NPO 環境リレーションズ研究所は考えています。また、自分の樹に会いに行く楽しみから実際に森を訪問することで、森のある地域との交流が生れ、意識せぬとも地域振興と活性化にも貢献することもできるのです。これまでの支援者は延べ457万人(2017年6月末現在)。数字が雄弁に、その魅力を物語っています。
都市の暮らしに里山の風を
「Present Tree」によって再生しつつある森がある一方で、植樹だけでは解決し得ない森が存在することもまた事実。「里山BONSAI」は、そうした真っ暗な森の再生事業をきっかけに生まれたプロジェクトです。実は里山の森の土には、古くからその地域の豊かな自然を育んできた在来種の種が休眠しています。長年にわたって見放され、日光が地面まで届かず下草も生えない真っ暗な森。それを整える過程で陽の光を入れ、目覚めた在来種の苗を育て、その苗を寄せ植えにしたのが「里山BONSAI」。ギフトなどにもふさわしい洒落た風情と、生活に採り入れやすい気軽さも魅力です。日本の在来植物の絶滅が危惧されて久しい昨今、これらを都市部で守り、都市の生きものや緑を豊かにし、森林保全などに対する都市生活者の興味関心を育てると同時に、里山の再生と活性化も果たす継続性と循環性。また、障がい者の方々が大切に育てた在来種苗も積極的に使用・一部商品の製造を彼らに委託することにより、福祉的就労のサポートにもつなげます。その意義の大きさでも、注目を集めているのです。
森と都市のかけ橋に
プレゼント――大切な誰かを思う温かさの奥に、自然や社会に対する貢献の力も秘められている「Present Tree」と「里山BONSAI」。その最大の魅力は、森と都市、人と人をつなぐ架け橋であることそのものに違いありません。
森のある地域に元気をとりもどし、都市を日本在来の緑や生物で豊かにし、障がい者の就労を支援する、 3つの課題を解決する活動を通じて、 生態系や、絶滅危惧種も含まれる日本の在来植物を保護、育成し、 地域の林業復活を支援、地方創生に繋げ、未来の子供達の持続可能な暮らしを実現していければ嬉しいです。”
認定NPO法人 環境リレーションズ研究所 理事長
鈴木 敦子