「大切な人や人生の記念日に、樹を贈ろう」——そんなコンセプトで2005年に産声をあげたプレゼントツリープロジェクト。各植栽地で1本1本の樹へ里親を募集し、苗木代・植栽してから10年間の保育管理費を含む金額をお支払いいただくと、メッセージ付きの植樹証明書が発行されて送られてきます。
プレゼントツリーで里親の募集前に必ず行われるのが、「4者で結ぶ森林整備協定(以下:4者協定)」。植栽場所の自治体・地権者・森林組合をはじめとする林業のプロ・そしてプレゼントツリーの四者間で、「10年間きちんと苗木を育てていきます」という協定を結びます。この協定により信用を担保して、自信をもって里親さんを募集することができるのです。
「4者協定」の締結こそが、プレゼントツリープロジェクトの中で一番の要であり、最大の難関。プレゼントツリーを運営する環境リレーションズ代表・鈴木によれば、この「4者協定」を結ぶのになんと平均2年の歳月がかかるとのこと。そこにはどんな障壁があるのか、4者協定にまつわる苦労話を聞いてきました!
まずは地域へ足を運ぶ。思いと熱意を伝え、心を通わせる
「最初はどうしたって“よそ者”と思われてしまうことが多い。こちらの思いと熱意をいかに伝えるか、怪しいものじゃないと思ってもらうか、そして心を開いてもらうか…がまず最初の一歩です」と鈴木は話します。そのためには、遠方の植栽地であっても何度も足を運び、地元の方と膝を突き合わせて本音で話をすること。時間もお金もかかりますが、心を通わせられるまで何度も通い続けます。
「各地域にはキーパーソンが必ずいます。その人にプレゼントツリーの意義や私たちの思いを共有できると、ぐっと話が進んでいきます。お話をしていると、皆さんスイッチが入る瞬間があるんですよ。『都市の人が樹を贈ることで、ここが第二のふるさとになり、交流人口・関係人口が増えて地域が元気になる』という言葉に共感してくださった方、被災地の復興支援に力を入れていることを評価してくださった方…様々です」
キーパーソンが別の地域とのご縁を結んでくださることも多々あると言います。関わった人たちが「ここならきちんとやってくれる」「安心だ」と太鼓判を押し、次のご縁をご紹介してくださる。同じエリア内で次から次へとご紹介がつながる植栽地も生まれており、まさに「人と人とのつながり」が、プレゼントツリーを支えていることがわかります。
広葉樹の森づくりは、敬遠される?
しかしながら、キーパーソンと意気投合し「ぜひ実現させよう!」と動き出したとしても、なかなか4者協定まで辿り着かないことも。その理由の一つが、プレゼントツリーの目指す「天然林に近い広葉樹中心の森づくり」と「林業的価値の高い針葉樹単一の森林」の違いにあります。
第二次世界大戦後、復興のための木材需要に応えようと植えられたのが、成長が早くてまっすぐ伸びるスギやヒノキなどの針葉樹。以来、日本の森では一貫して針葉樹が植えられてきました。ところが安価な輸入木材に押されて木材価格が下落、日本の林業は急速に衰退していきます。針葉樹の森は、半永久的に人間が手を入れ続けなければ荒れてしまいます。近年多発している豪雨による土砂崩れ・山崩れの被害も、年老いて放置された針葉樹林や伐採後の禿地が原因の一つと言われています。
プレゼントツリーはその地域本来の植生である広葉樹を複数種類植え、天然林に近い森づくりを行っています。ただ林業で栄えた地域等では「針葉樹のほうがお金になる」という考え方が根強く、広葉樹を植えるというと難色を示されることも…。「私たちは針葉樹の森を否定しません。林業を継続できるならば、そのままスギやヒノキの人工林を維持管理し続けるべきだと思っています。手入れが行き届いた針葉樹の森もとても美しいですし、その森から産出された国産材を循環させることは地球温暖化対策にもなります。ただ、プレゼントツリーによる森づくりが望まれる地域のほとんどは、高齢化が進み森林経営の担い手が居なくなってしまった所です。そのような場所では、手入れをし続けなければならない人工林ではなく、いずれ森として自立していく天然林の形に戻すことが望ましいと思っています」
深刻な森林管理の担い手不足
また、森林の管理の担い手不足も理由の一つ。プレゼントツリーで結ぶ四者協定では、「10年間しっかりと苗木を育てていく」という約束をします。だからこそ、自信をもって里親さんの募集を行っています。
里親さんから集めた寄付金で樹を植え、管理を行うのは各地の森林管理を担う「森林組合」と呼ばれる組織の皆さんや、地元の林業家さん。日本全国人手不足が叫ばれる昨今、各地域の森を管理する森林組合も例外ではなく、高齢化と人手不足が深刻です。中には片手で数えられるくらいしか従業員がいない…という森林組合もあります。10年間という保育期間を目にして、「そこまで人手を割けない」「そんなに先までやれるかわからない」と拒まれてしまうことも。
ただ、このまま手をこまねいているだけでは現状は悪化するばかり。プレゼントツリーには、植樹を通して都市に住む人々が森に興味を持つようになる、という効果があります。里親として森に関わることで林業に興味を持ち、志す人が出てくるかもしれません。都市から森への「人の循環」も、プレゼントツリーは実現させていきたいと考えています。
地元自治体と長期にわたって関わることの難しさ
これまでにプレゼントツリーと協定を結んだ自治体であっても、効果は実感いただいているもののなかなか次につながらない…というパターンがあります。その理由は、地元自治体と長期にわたって関わることの難しさにあります。
自治体の首長は、4年に一度選挙が行われます。選挙で首長が代わることで、それまでプレゼントツリーと自治体とで築いてきた信頼関係をまたゼロから構築し直さなければならず、そこから話が進まなくなってしまう現場もあります。他にも、熱心に取り組んでくださっていた現場の担当職員さんが異動してしまい、引継ぎがうまく行われず疎遠になってしまったり。首長さんが「ぜひやりたい!」と熱心でも、現場の職員さんが動いてくれなかったり…。長い期間をかけてたくさんの人が関わるからこそ、実務だけでなく想いも引き継いでいくことの難しさに直面するのです。
100年後に元気で美しい森を残していくために
2023年現在までに、プレゼントツリーでは国内外52か所・約37万本を植樹しました。この52か所の所在地の内訳を見ると13都道県と、エリアに偏りがあることがわかります。「2030年までに全都道県にプレゼントツリーの森を作りたい!と取り組んできたのですが、あと7年。協定までに平均2年かかることを考えると、このペースでは厳しいと言わざるを得ない。関西や四国の森にも、都市部からの人の流れを創りたいのですが、お話はいただくもののなかなか協定まで結びつかない難しさがあります」と代表・鈴木。
関係者みんなで思いを共有し、広葉樹の森に価値を感じていただき、協定を結ぶ自治体・森林組合・地権者で10年間同じ方向を向くことを約束する——4者協定は、そんな絶妙なバランスの上に成り立っています。現在は絶妙なバランスかもしれないけれど、少し先の未来には、この4者協定がスタンダードになるように。100年後に元気で美しい森を残していくために、プレゼントツリーはこれからも活動していきます。