【森を守る人々】民間と福祉を掛け合わせた「民福連携」の力で、森づくりを進める。それが障害ある人々の就労とやりがいにつながる—株式会社研進・出縄貴史さん

様々な立場の方が、「森を守ろう」「未来に美しい森を残そう」とご支援くださっているプレゼントツリープロジェクト。そんなプレゼントツリーに関わる人々へのインタビュー連載企画【森を守る人々】、スタートします! 第一回は、障害福祉の立場から「いのちの森づくり」に関わり、苗木の育成・提供を手掛けている株式会社研進・出縄貴史さんにお話を伺いました。

平塚にある、苗木をつくる圃場「どんぐりハウス」「まじぇるハウス」

東名高速道路の平塚インターを降り、美しい石垣の間へ車を滑らせていくと、大きな田んぼの脇に2棟のビニールハウスが現れます。ここは、障害者支援を行う社会福祉法人「進和学園」が運営する「どんぐりハウス」と「まじぇるハウス」。どんぐりを発芽させてポットに移し、育てて出荷している場所です。「ここはもともと、きゅうりの栽培用ハウスでした。苗木を育てる場所を探していたときに、オーナー様が貸してくださったんです」と話してくれたのは、進和学園の営業窓口である株式会社研進の代表・出縄さん。

ハウスの中では、「進和学園」とロゴの入った黄緑のTシャツを着た「どんぐりブラザーズ」の皆さんが、苗にお水をあげたり伸びすぎた枝を剪定したり…と忙しく立ち働いています。この日はまだまだ残暑の厳しい9月中旬、ハウスの中に5分いるだけで汗が噴き出てくるような環境でしたが、皆さん楽しそうに働いているのがとっても印象的。「ここで働いているのは、主に知的障害のある方たち。どんぐりブラザーズには、体力に自信のあるメンバーが揃っています」

シイにカシ、タブノキなどなど…大人の木から見ればまだまだ赤ちゃんサイズのポット苗たち。可愛らしい葉っぱを揺らしながら、圃場に所狭しと並んでいます。ここで育った苗は、進和学園で進めている「いのちの森づくりプロジェクト」で苗木として使われるほか、苗木を必要としている団体へ販売したり植樹イベントで使われたりと、ハウスを飛び出して活躍しています。私たちプレゼントツリーも、何度も進和学園の苗木を使わせていただいています。

プレゼントツリーとの出会い

プレゼントツリーと進和学園の出会いは、2011年に開催された「Present Tree for 湘南国際村めぐりの森」に遡ります。「湘南国際村めぐりの森」は2009年から始まった官民連携プロジェクトで、進和学園・研進ともにメンバーとして参画しています。神奈川県横須賀市にある112haの広大な土地を森林に戻そうと現在も毎年植樹が行われており、2023年までに6万本近くの進和学園の育てた苗木が大活躍! ただ15年経っても植樹が完了したのはまだほんの一部とのこと、今後も地道な努力を続けていく必要のある植栽地です。

プレゼントツリーが携わったのは広大な「湘南国際村めぐりの森」の中の一部、A地区と呼ばれる場所で、2011年に3000本を植える植樹イベントが行われました。「3000本の植樹のうち、進和学園の苗を1600本使っていただきました。A地区は一番地盤の固い場所で、植えるのにすごく時間がかかってしまって…。おまけに午後から子ども向けのイベントが予定されていたので、植え終わらないうちにみんなそっちに行ってしまったんですよ。残されたボランティア20人で、積み残した分の植樹を全部やるという(苦笑)。あれは今までの植樹で3本の指に入る大変さでしたね」

地盤が固いため、植樹の大変さはもちろん育樹にも手がかかった、と出縄さん。「苗木の成長がとにかく遅くて。それでも雑草は生えてくるから、頻繁に下草刈りにいかなければならない。さすがにA地区は12年経って自立した森になっていますが、それ以後に植えた森については今でも毎週金曜日に下草刈りへ行っています」。以前プレゼントツリーで植えたA地区も、見に行くことが可能とのこと! ぜひ次の機会に訪れてみたいです。

続く2013年「Present Tree in 熱海の森」でも、進和学園の苗を提供いただきました。「熱海の森は本当に斜面が急で! ヘルメットをかぶって植樹したのはあれが初めてでした。体力に自信のあるメンバーと一緒に参加したんですけれども、苗を背負って斜面を登るのが大変でみんなヘバっちゃって…。鹿対策のネットを張ったのも、この時が初めてでしたね。プレゼントツリープロジェクトでは、苗木を購入いただくだけでなく、いろんな経験をさせていただいています」

もう一つのプロジェクト「アーバン・シード・バンク」での「民福連携」

我々プレゼントツリーの姉妹プロジェクト「アーバン・シード・バンク」で行っている「里山BONSAI」。里山由来の苗を、小さなマスに植え苔を飾ることで盆栽に見立て、「里山のかけらを自宅で育てられる」というものなのですが、この「里山BONSAI」でも苗木の提供や栽培委託という形で進和学園のお世話になっています。取引企業で行われる「里山BONSAI」ワークショップに、出縄さんにご登壇いただくこともあります。

「大切なのは『人と自然との共生』。森に樹を植えるだけでなく、里山BONSAIのような小さな自然を都市で育てるというアプローチも、意義のあることだと思います」と出縄さん。この日は里山BONSAIの苗を提供するのに加え、梱包・発送まで障害ある方々の仕事として発注ができないか、と弊所スタッフとの打ち合わせもありました。

「民間と福祉の協働を『民福連携』と呼びます。今回のような民福連携のお話をいただくのは、営業窓口である我々研進としては大歓迎! 逆に進和学園のスタッフは、これだけ大きな仕事だと利用者さんに負担がかからないだろうか…?と心配になってしまう。そこがやはり、民間と福祉の視点の違いなんですね」。もともと民間企業にお勤めだった出縄さん、長らく福祉に携わってきたスタッフと考え方がぶつかることも多いと言います。原因には行政制度の壁があることも。出縄さんは民間と福祉の両面の立場から感じる問題意識を踏まえ、行政への政策提言も行っていらっしゃいます。

「民間」と「福祉」二つの視点を混ぜることで、新たなモノが生まれる!

「障害者の方々の自立就労支援というのが我々の使命。もともとはHondaさんの自動車部品組み立てのお仕事を請け負ってずっとやってきたんですが、これから先を考えるとそれ一本ではなかなか難しい。それで私の代になってから、森づくりに関連する苗木の栽培や植樹・育樹、地元スーパーでの『施設外就労』、トマトジュース等の通販、ブル ーベリー栽培、ホットケーキパーラーの運営と、仕事の幅を広げてきました」。Hondaさんとのご縁で、青山1丁目にある「MILES Honda Café」内では、進和学園で製造されたお菓子やジュースが買えるんです! 一流のコーヒーが提供されるおしゃれなカフェで、障害のある方々が作ったトマトジュースやブラウニーがいただける…これぞ「民福連携」の一つのカタチですね。

「森づくりに関わることが障害のある方々の仕事になり、やりがいになる。プレゼントツリーの皆さんとお仕事をすることで、我々もプレゼントをもらっているな、と感じます」。出縄さんが何度も口にする「民福連携」という言葉。「民間」と「福祉」、一見すると相容れない二つの視点なのですが、それが混ざることで新しいモノが生まれる、と力説してくださいました。「最近では福祉との連携を望む民間企業も増えてきました。これからはいろんなネットワークが大切になってくる時代。一か所だけでは非力でも、一緒にやれば大きなことができる。プレゼントツリーの皆さんとも、固定観念にとらわれず一緒に新しいことへチャレンジしていけたらいいなと思っています」

一番左が出縄さん。苗木を育てている「どんぐりブラザーズ」、研進のスタッフさん・進和学園のスタッフさん、そしてプレゼントツリー事務局のメンバーも混ざって集合写真をパチリ!

障害ある方々の就労支援を通じて、未来を見つめる出縄さん。民間と福祉の両面からの柔軟な発想、多様性への思い、幅広い仕事を手掛ける視野の広さ…もっともっとお話を聞きたい!と思ってしまいました。 お忙しい中お時間をいただき、誠にありがとうございました。これからもカウンターパートとして民福連携を進めながら、未来のための森づくりに携わっていきましょう!

社会福祉法人 進和学園…http://www.shinwa-gakuen.or.jp/
株式会社研進…http://www.kenshin-c.co.jp/index

Present Tree 事務局

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