【森を守る人々】目指すのは、林業の活性化と檜原村のファンづくり—東京チェンソーズ代表・青木さん

様々な立場の方が、「森を守ろう」「未来に美しい森を残そう」とご支援くださっているプレゼントツリープロジェクト。そんなプレゼントツリーに関わる人々へのインタビュー連載企画【森を守る人々】、今回は東京都檜原村で林業を営む「東京チェンソーズ」代表・青木亮輔さんにお話を伺いました。

東京チェンソーズは、「Present Tree in TOKYO」での協働先

念願であった東京都でのプレゼントツリーが始まったのは、2021年。「Present Tree in TOKYO」と称し、多摩地域の西部に位置する東京都檜原村小沢地区が舞台です。

「Present Tree in TOKYO」の現場

東京都檜原村は、なんと森林率93%。村の面積の7割が秩父多摩甲斐国立公園内に指定され、東京都内でありながら豊かな自然の残る村です。一方で、全国や東京都の平均を大幅に上回るスピードで少子高齢化が進んでおり、担い手不足によりこれらの自然や文化の継承が困難になることが懸念されています。

そんな檜原村小沢地区の一画に地元植生の落葉広葉樹を植え、都心部の人々と地域住民とが協力し合いながら森を育むことで、東京に「山笑う」美しい里山を再生しようと、「Present Tree in TOKYO」は始まりました。「Present Tree in TOKYO」の森林施業・管理を担ってくださっているのが、「東京チェンソーズ」の皆さんです。代表の青木さんをはじめ、いつもチェンソーズの皆さんには大変お世話になっています。

2023年4月に行われたイベントの様子

植樹をして山がきれいになるだけじゃない、村へのメリットがある

—今日はよろしくお願いします。まずは、青木さんがプレゼントツリーと出会ったきっかけを教えていただけますか。

「もともと(プレゼントツリー代表の)鈴木さんとは面識がありまして、その中で前々から『東京でプレゼントツリーをやりたい』という話はいただいていました。ただ、なかなか現場が見つからなくて…。現在、東京都自体が皆伐・再造林ということに対していろんな事業を行っていること、広葉樹を育てるという取り組みに対してOKである場所を見つけるのが難しかったこともあり、調整が難航しました。2021年に、ロケーション的にちょうど良い場所が見つかって、ようやくスタートできたんです」

東京チェンソーズ代表・青木さん

—実際にプレゼントツリーと協働して、どんなところが良かったでしょうか。

「やはり皆さんおっしゃると思うのですが、これまでご縁のなかった個人の方や企業さんとつながりを持てるというのは、非常に良かったですね。逆に、弊社とお付き合いのあった会社さんから『木を植えたい』とご要望をいただいたときに、うちではなかなか適した場所がなく、プレゼントツリーさんをご紹介したり。そんな受け皿的な役割も担っていただいています」

—檜原村という地域にとって、プレゼントツリーの効果はいかがでしたか。

「ここは檜原村の北側の地域になるんですが、最近になっておもちゃ美術館が出来ましたけれど、主だった観光施設があまりないんです。そんな場所でプレゼントツリーのイベントが開催されることで、たくさんの方に来ていただけると、地域に活気が生まれます。『Present Tree in TOKYO』の植栽地の目の前には、『ひのはらファクトリー』という村の観光施設があるんですが、イベント時にはとても賑わいます。そういった地域活性化という効果を、地域の人たちも目に見えて感じていて、喜んでいただけていますね」

「檜原村は人口がどんどん減っている自治体です。私が檜原村に来た20年前は3500人だったのが、現在は2000人、2040年には800人に減るだろうと言われています。そんな過疎化が進む檜原村で、公共サービスを維持しようと思ったときに、住んでいる人だけではなかなか難しい。たとえばバスの利用ひとつとっても、住んでいる人の需要だけと限られてしまって、どんどん減便されてしまう。そこへ、都市から公共交通機関を使って檜原村まで来ていただければ、都市の人たちの力を借りて檜原村の公共サービスが維持できるんです。植林をして山の環境が整うだけではないメリットを感じます」

—なるほど、そういう側面もあるのですね。今日は私もここまでバスで来たのですが、お役に立てていたら嬉しいです! 逆に、プレゼントツリーとの取り組みで大変なことはありますか。

「うーん…ありがたい悲鳴みたいなことでしょうか。たとえばイベントをやりたいというときに、団体様によって若干ニーズが違ったり、リクエストが途中で変わったり、そのあたりの事前な調整がちょっと大変なこともありますが、そのくらいですね」

檜原村との出会いは偶然!? 東京チェンソーズ創業から17年、新たなステージへ

—大阪生まれ・千葉育ちという青木さん。檜原村との出会いを教えてください。

「大学時代は東京に住んでいたので、関東近辺で林業やりたいなと探していたんです。最初は東京で林業というイメージがなくて、千葉とか埼玉・群馬、そういったところを探していました。たまたまハローワークで半年間限定の緊急雇用の募集を見つけて、それがたまたま西多摩の6市町村だったんです。その中で宿舎があったのが檜原村と奥多摩で、第一希望を奥多摩・第二希望を檜原村で出したら、檜原村に決まったと。それがご縁ですね」

—出会いは偶然だったんですね! 檜原村の森林組合での勤務を経て、青木さんが2006年に創業した東京チェンソーズ(青木さんと東京チェンソーズの歩みは、現在 Insagramの@manga_tokyochainsaws にて連載中ですので、ぜひチェックしてみてください!)。東京チェンソーズ自体、今ではかなりメディアにも取り上げられていて、一般の方々の間にもその名前が浸透しています。

「創業当時から『情報発信に力を入れていこう』と、企業理念にも『山のいまを伝え』という一文を掲げていました。当初は山の手入れが中心だったんですが、いつかはなんらかの形で伐り出した樹で作ったものを売ったり、森の中で何らかのサービスを提供したりしたいから、その時に知っておいてもらえるように…という思いがありました。だから山の中にこもっていた時から、コツコツ発信していたんです。だからこそ、今こうして一般の方に情報を届けられていると感じます」

「林業に従事している山のおじさんってどちらかというと寡黙な方が多いんです。酒飲むとよくしゃべるんですけど(笑)。自分たちが創業したときに、やはりベテランの方には技術的にはかないませんが、情報発信といったところで貢献できるんじゃないか、という思いもありました」

—東京チェンソーズとして、現在抱えている課題はありますか。

「これまで東京チェンソーズでは、『一本まるごと使い切る』をコンセプトに、『木一本の価値を最大化する=小さくて強い林業』に取り組んできました。最近では公共施設や大規模施設への木材利用のニーズが高まっていまして、そこへ対応するためには木材の生産量を上げないといけない。そのためには人財育成・設備投資、そういったところが次のステップであり一つの課題として感じています」

林業の視点から、村に人をたくさん呼びたい

—2023年5月から、檜原村の村議会議員としても活動されている青木さん。どういった想いから、立候補されたのでしょうか。

「これまでも林業を通じて村をよくしたいというビジョンはあったので、そこはそんなに変わらないです。ただ、今まではいち企業として成り立つということが大前提としてあって、会社を中心に結果として村がよくなればいいという考えだったんですけど、一つの会社だけでできることってどうしても限られる。東京チェンソーズとして目指している方向というのは、社会のニーズに合わせていると思っているんですけれども、じゃあ檜原村はどうなのか。村の面積の93%を占める森林をどう生かしていくのかという、檜原村としての方向性が、社会のニーズと合ってくれないと、村全体としてよくはなっていかないんじゃないか。特に森林のことは中長期で考える必要がある問題で、村としてのビジョンをしっかり作らないといけない、そういう想いがありました」

払沢の滝の上側にある「MOKKINOMORI」。晴れていれば、山々の向こうに都心が見えるのだそうです。

—今後、檜原村をどんな村にしていきたいとお考えでしょうか。

「森林の占める割合は東京都で4割、日本全国で7割に上ります。林業がしっかりと自立した産業になることで、檜原村だけじゃなく東京、日本がより豊かになっていくというところに結び付けるように、これからも林業の仕事に取り組んでいきたい。特に檜原村は93%が森林ですから、ここでしっかりと林業を活性化させていく。さらに檜原村は、7割が秩父多摩甲斐国立公園に指定されています。全国に34か所ある国立公園の、ある意味で玄関口なんです。そういったところもPRしながら、檜原村に存在する森林・自然の価値をもっと高めていって、より多くの人に足を運んでいただけるように、林業というアプローチで取り組んでいきたいと考えています」

—ありがとうございます。そんな展望も踏まえて、これからプレゼントツリーに期待することがございましたら教えてください。

「まずは期待する前に、鈴木さんから期待されているプレゼントツリーの新しいフィールドをしっかりと見つけていくことが前提にはなりますが。やはり多くの関係人口がプレゼントツリーを通じて生まれますので、そこへの受け皿も用意しながら、より多くの方々に檜原村に足を運んでいただいて、森に触れることを通じて檜原村のファンになってほしい。そして一度だけでなく、何度も足を運ぶというストーリーを作っていければなと思っています」

—新宿から車で1時間半ほど。都心からアクセスしやすく、東京都でありながら自然に囲まれている檜原村には、相当のポテンシャルがありますよね。青木さん、お忙しい中お話を聞かせていただき、ありがとうございました!

これからもたくさんの人に、もっと森と地域を楽しんでもらいたい!

今回話を聞かせていただいた場所は、プレゼントツリーの植栽地が正面に望める森の中。檜原森のおもちゃ美術館のちょうど裏手から、ずんずん登っていきました。秋の爽やかな晴れの日だったこともあって、そよ風も、土の上の落ち葉の感触も、とても気持ち良かったです。

実はこの森、東京チェンソーズの取り組みの一つ「6歳になったら机をつくろう」というプログラムの中で、木こり体験のできる森でもあります。このプログラムがとっても魅力的なのですよ…!午前中は森で木こり体験(間伐ができるんです!)、 午後は檜原村産のスギ材を使って机づくりができるというプログラムなのですが、この檜原村の景色をぜひ子どもたちに見せてあげたいなぁ~と、筆者も参加をもくろんでおります。

森のふもとの檜原森のおもちゃ美術館は、小学校の跡地を利用した、とてもきれいで温かい雰囲気の美術館です。赤ちゃんから楽しめるつくりになっているので、ぜひこちらにも足を運んでみてほしいです! おもちゃ美術館の隣にある「おもちゃ工房」は東京チェンソーズが運営しており、木の加工や雑貨・おもちゃづくりを行っています。ここで作られた木のグッズやおもちゃは、東京チェンソーズオンラインストアや、おもちゃ美術館内にあるミュージアムショップ「CruChoi」でも購入できますよ♪

この日私がゲットしたのは、樹皮のついたままの鍋敷きと、丸太を割った一輪挿し。この「何も加工していない」感じが、潔くてカッコイイですよね! どちらも清冽な木の香りがして、置いておくだけで森を身近に感じられます。

東京都檜原村という立地、森と木材の効果的な利用方法、そして“魅せ方”。東京チェンソーズの取り組みは、「檜原村に行ってみたい!」「森を歩いてみたい!」「木に触れてみたい!」とワクワクさせてくれるものばかり。プレゼントツリーも、もっと森と地域を楽しんでほしい!という思いは同じです。これからは植樹以外にも、一緒に何か取り組めたらいいなぁ…と感じました。青木さん、東京チェンソーズの皆さん、これからもどうぞよろしくお願いいたします!

東京チェンソーズ…公式サイトInstagram/Facebook/X(旧Twitter)

青木亮輔さんプロフィール…1976年生まれ、大阪府此花区出身。東京農業大学林学科卒。学生時代は探検部に所属し、モンゴル国洞窟探査やチベットでメコン川源流航下などの活動に熱中する。1年間の会社勤めの後、2001年林業の世界へ。2006年、所属していた地元森林組合から仲間とともに独立し、東京チェンソーズを創業。檜原村林業研究グループ「やまびこ会」役員。(一社)TOKYOWOOD普及協会専務理事。MOKKI株式会社代表取締役。ツリークライミング®ジャパン公認ファシリテーター。2023年5月より檜原村議会議員。

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