【森を守る人々】都市と森との新たな関係を構築し、日本のモデルにしていきたい—宮城県大崎市・伊藤康志市長

様々な立場の方が、「森を守ろう」「未来に美しい森を残そう」とご支援くださっているプレゼントツリープロジェクト。そんなプレゼントツリーに関わる人々へのインタビュー連載企画【森を守る人々】、今回は「Present Tree in みやぎ大崎」の舞台である大崎市の伊藤康志市長にお話を伺ってきました。

「Present Tree in みやぎ大崎」とは

宮城県北西部に位置し、東西に約80kmの長さを持つ大崎市。市の中央を江合(えあい)川と鳴瀬(なるせ)川が流れています。市の西側は江合川の上流域にあたり、奥州三名湯に数えられた「鳴子温泉郷」や紅葉の景勝地「鳴子峡」といった観光名所があります。東側に広がる肥沃な大地には、伊達政宗の時代からの水管理システムを利用した水田が広がり、美味しいお米がとれます。

そんな大崎市も、高齢化や過疎化によって森林管理の担い手が不足し、上流域の森林整備が行き届かなくなっていました。プレゼントツリーとの協働が始まったのは、震災からの復興間もない2014年。「Present Tree in みやぎ大崎」と称し、江合川上流(荒雄川)の森林を再生するため、「鳴子こけし」の材料となるミズキをはじめ、地元植生の落葉樹を植えて、美しい紅黄葉が楽しめる針広混交林を育てています。これまでに約3万3千本を植樹、2023年には新たに4か所目となる協定も結び、着々と「水源地の森づくり」を進めています。

2023年11月5日に開催された「Present Tree in みやぎ大崎」植樹ツアーにて

大崎市の伊藤康志市長には、2014年当初から大変お世話になっています。植樹ツアーで都市の方々を大崎市へお連れすると、必ず自ら出向いて参加者の皆さんへご挨拶をしてくださいます。プレゼントツリーを理解し、森づくりと地域創成という両面から意義を感じてくださっている伊藤市長。今回のインタビューでは、その熱い思いを語っていただきました!

プレゼントツリーが始まって、森林地域の人や林業従事者が「自分たちも頑張ろう」と奮い立った

—プレゼントツリーとの協働が始まったのが2014年、もう9年前のことになります。当時、プレゼントツリーにどのような期待をして協定を結ばれたのでしょうか。

「大崎市は、2006年の平成の大合併の折に、古川市および遠田郡田尻町、志田郡三本木町・松山町・鹿島台町、玉造郡岩出山町・鳴子町が合併して出来た市です。市の中に水源地をいただいたことは、まさしく大崎の宝。この水源地から流れ出る恵みの水のおかげで、大崎は『大崎耕土』と呼ばれる豊饒の大地となったのです。水源地には水を育む森があります。この森は、美味しい水を育むだけでなく、大雨の際の保水・治水機能も発揮し、美味しい空気や美しい自然も保持してくれていました

「ただ、昨今では森を維持する人々の高齢化や人口減少などにより、荒れた森が目立つようになりました。そのため、森の本来の機能がだんだん低下していきました。なんとか森を守り、水源地・上流域を元気にするための方法はないかと考えていたところ、このプレゼントツリーという取り組みに出会ったのです。上流域の人々だけでは維持ができなくとも、森を大切にしたいという都市の方々とつながって、森をもう一度生き返らせる。それができれば、大崎と都会の方々との新しいつながりも生まれるだろう…そんな期待をして、協定を結んで活動がスタートいたしました。もう9年になりますか、大変感謝しております」

毎年欠かさず植樹イベントでご挨拶をしてくださる伊藤市長

—当初抱いた期待と、9年経った現在とで、想定外だったことや想定以上だったことはございますでしょうか。

「想定外のことはありませんでして、想定以上のことがほとんどですね。地域の人たちも『荒廃した森をなんとかしなければ』『森を大切にしたい』とは思っていたのですが、こうしたらいいという術がなかったんです。その中で、プレゼントツリーというプロジェクトとつながったことによって、諦めかけていた地域の人々や森林関係者の方々が、『都会の方々が応援してくれるなら、私たちももうひと踏ん張り頑張ろうじゃないか!』と、やる気を出すことができた。プレゼントツリーに触発されて、市民の森づくり事業であったり、江合川の上流・中流・下流域に住む人々の交流事業であったり、そういったものが生まれています。森を守るためにみんなで頑張ろう!と、気付かせていただきました。プレゼントツリーには、そういう新しい動きが起こるきっかけを作っていただけました。今のところいいことだらけですね」

木材を生産するだけではない、森の大切な役割「保水機能」

—ここ数年、気候変動の影響で、各地で豪雨や土砂災害などの被害が報告されています。防災や森づくりに対する、市の職員さんや市民の皆さんの意識に変化は感じられますでしょうか。

「はい、大きく変わりつつあると思います。これまでは便利さやものの豊かさが追い求められ、長い年月をかけて我々と共生している“自然”をやや軽んじた動きがありました。その反動というべきかもしれません、気候変動の影響での豪雨災害が頻発したり、災害の規模も大きくなってまいりました。もちろん災害から暮らしを守るためのハードの整備事業も大切です。が、それ以上に、自然の中に本来備わっているサイクルだったり秩序、自然のもつ循環機能が機能しなくなったことに改めて気づかされました」

「森林には多面的な機能があります。木材を生産したり、二酸化炭素を吸収して酸素を作り出したり、癒しやレクリエーションの場を与えてくれたりしますが、森林の大切な仕事の一つに『保水機能』があります。雨がたくさん降ったら樹木が吸い上げ、根や土とともに大地に溜めてくれていました。ところが、その森林が荒廃してしまった。伐採したのに植林がなされなかった場所では、降った雨が一気に里地へ流れたり、あるいは土砂が崩れたりという自然災害が頻発します。大崎市は54%が森林です。その森林の果たす役割を改めて再認識して、森を大切にしよう、もう一度機能を取り戻していこうと、大崎市民は感じています。全国の方々も気づき始めているのではないでしょうか」

都市と森との新たな関係を構築し、これからの日本のモデルにしたい!

—ふだんの生活の中では森林の役割には気づきにくいですが、おっしゃる通り、全国で災害が起きるたびに「このままではいけない」と思わされます。未来に向けて、我々一人ひとりができることを考えなくてはならない時期だと感じます。大崎市長として、これからプレゼントツリーに期待することを教えてください。

「プレゼントツリーを通して、都市生活者と大崎市、特に上流域・森林地域に住む方々との、新しいwin-winな関係を作っていきたい。都市と森林のつなぎ役を、ぜひお願いしたいと思っております」

冬になるとマガンがたくさんやってくる「蕪栗沼」。夕方、エサ探しにでかけていたマガンたちが四方八方から蕪栗沼を目指して一斉に帰って来る様子は、圧巻です。

「大崎市には、ラムサール条約湿地に登録された蕪栗沼(かぶくりぬま)・化女沼(けじょぬま)があり、大崎市の大地そのものが『大崎耕土』として世界農業遺産に登録されたり、SDGs未来都市に選定されたり、大崎の先人が残してくれた豊富な自然や環境、豊さがたくさんあります。そんな恵まれた自然環境がある大崎市ですが、少子化・人口減少・高齢化という時代の流れによって、森林やコミュニティ、そして生活を維持することが大変になっています。しかしこの豊かな森を守りたいという気持ちがあります」

都市からやってきた参加者が、大地に樹を植えます。大変だけれど、とても楽しい!皆さん爽やかないい笑顔をしておられるのが印象的です。

「翻って都市では、便利で豊かな生活を享受しながらも、毎日満員電車に揺られたり、ビルの中で息詰まるように仕事をしていたり、人間関係に悩んだり…果たしてこれが真の豊かさなのだろうか?と、疑問に感じることも多いのではないでしょうか。大崎市にあるような、ほたるやとんぼ、カブトムシ、美味しい水と美味しいお米、それを育む豊かな自然。『そこに自分も直接関わってみたい』と思う都市の方々が、たくさんいるのではないかと思います。そんな都市の人々と、自然を維持したいけれども人手が足りない森林地域の人々が、プレゼントツリーを通じてつながる。森林を守る方々やその地域は、都市の人々が訪れることで元気を取り戻す。そして都市の方々も、たまには心の疲れを癒しに、実家に帰って来るような、新しいふるさとに帰って来るような気持ちで、大崎市に来ておおいにリフレッシュしていただいて、また仕事と生活をがんばる。そんないい循環、都市と森との新たな関係を構築していく。それをここ大崎から、これからの日本のモデルにしていきたいと思っております」

—「プレゼントツリーを通じた都市と森との新たな関係を構築し、ここ大崎から日本のモデルにしていく」…なんて素晴らしい構想でしょう! 市長の熱いお言葉を聞いていて、鳥肌が立ってしまいました。伊藤康志市長、ご多忙の中お時間を割いていただき、本当にありがとうございました!

「Present Tree in みやぎ大崎」では、現在里親募集中♪ 来年秋の植樹ツアーも企画しています

このインタビューは、11月5日に行われた「Present Tree in みやぎ大崎」植樹イベント中に行われました。インタビュー前には伊藤市長もクワを振り、植樹をしていらっしゃいました。高校時代は相撲で体を鍛えたという伊藤市長、重いクワを軽々扱っていらっしゃって、さすがです…!

「Present Tree in みやぎ大崎」は、来年でスタートからちょうど10年を迎えます。これからもこの勢いは衰えることなく、たくさんの都市に住む方々とたくさんの森林地域の方々を巻き込みながら、“都市と森との新たな関係”を築いていくことでしょう。

大崎市の伊藤康志市長(左)と、環境リレーションズ研究所理事長の鈴木(右)。気心知れた二人の軽快なトークも、「Present Tree in みやぎ大崎」植樹イベントで大崎を訪れる楽しみの一つ!

Present Tree in みやぎ大崎」は、現在第4協定エリアにて里親を募集中です。そして来年秋には、同じく「Present Tree in みやぎ大崎」第4協定エリアにて、植樹ツアーが開催予定! 大崎市の誇る豊かな自然と、自然の恵みを体感したい方は、ぜひご参加ください(募集開始の際には、プレゼントツリーブログ公式LINEなどでご紹介します)♪ 来年のイベント時にも、きっと伊藤市長はご出席くださるはず!

大崎市・伊藤康志市長プロフィール…1949年生まれ、宮城県涌谷町出身。高校時代は相撲で体を鍛える。1987年に宮城県議に立候補しトップ当選、以後5期連続でトップ当選を果たす。2005年に宮城県議長に選出。2006年に合併で生まれた大崎市長選へ立候補し当選、初代大崎市長に就任し、現在に至る(5期目)。
伊藤市長公式サイト
大崎市公式サイト

Present Tree 事務局

〒101-0052 東京都千代田区神田小川町2-3-12 神田小川町ビル8階
Tel 03-5283-8143 / Fax 03-3296-8656

page top