様々な立場の方が、「森を守ろう」「未来に美しい森を残そう」とご支援くださっているプレゼントツリープロジェクト。そんなプレゼントツリーに関わる人々へのインタビュー連載企画【森を守る人々】、今回は北海道大学で造林学を研究している森林の専門家・吉田俊也先生にお話を伺ってきました。
プレゼントツリー立ち上げからご指導いただいている専門家・吉田先生
プレゼントツリー立ち上げの時から、“広葉樹を用いた造林学の専門家”として森づくりをご指導をいただいている吉田先生。北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの教授であり、森林圏ステーション北管理部の部長も務めていらっしゃいます。
北海道大学は、北海道北部に東京23区よりも広い面積の研究林を所有しています。私たちが訪れたのは、その研究林のうちの一つである「雨龍研究林」。場所は北海道雨竜郡幌加内町(うりゅうぐんほろかないちょう)、日本最大の人造湖である朱鞠内湖(しゅまりないこ)を取り囲み、ミズナラ林やアカエゾマツ林など多様な林相を持っています。吉田先生をはじめセンターの職員さんや北海道大学の学生さんが、このフィールドで施業・造林学の研究をされています。
「Present Tree in 北海道」では、2006年よりプレゼントツリーと北海道大学が協働し、北海道大学が所有する研究林内の、ササで覆われてしまったエリアの森林再生に取り組んでいます。北海道に固有の種である「アカエゾマツ」を植えることで、「針広混交林」の再生を目指しています。この日は雨龍研究林内にある特徴的な場所をご案内いただきながら、プレゼントツリーのお話もたくさん聞かせていただきました。
山での地道な取り組みを、街の人たちに知ってもらえる
—まず、プレゼントツリーとの出会いを教えていただけますでしょうか。
「北海道大学の卒業生から、プレゼントツリーというプロジェクトの紹介を受けたのが始まりです。私たちもずっと樹を植えてはいたのですが、都市の人たちと交流するということはほとんどなかったので、樹を植えて都市部の方がその里親になってくださるというプレゼントツリーの概要を聞いて、とても新鮮な取り組みだなと感じました」
—プレゼントツリーと協働してみて、いかがでしたでしょうか。
「やはり都市の人たちとつながれるということが魅力ですね。私たちが山の中で樹を植えていても、ただ地道にやっているだけで、誰にも伝わらないんです。このプレゼントツリーとの取り組みを通して、そういった私たちの地道な活動や、樹を植えることの大切さを、多くの人に伝えることができる。そして、山で働く私たちがそのことを実感できるのが、プレゼントツリーの良いところだと思います。都市の方々が訪れてくださるぶん、少し通常よりは手間がかかるという部分はありますが、それを上回るメリットがあると思います」
針葉樹だけじゃない森づくりを、協働で進めていく
—吉田先生が取り組む研究の中で、プレゼントツリーはどんな役割を果たしているでしょうか。
「街の方々と一緒に取り組む森づくりでは、これまでの林業の常識にとらわれない『森育て』ができます。林業界のスタンダードである『針葉樹を植えてお金にする』ではなく、『針広混交林』として針葉樹も広葉樹も一緒に育てていく森づくりには、むしろ一般の方のほうが受け入れていただきやすい。もちろん、針葉樹を育てるのもそれはそれで大切なことなんですけれども、都市の人たちとの感覚の違いを感じられるということですね。そういった都市の人たちの声を、私の研究の中でも取り上げていきたい。そういうきっかけをいただけたことが大きいかなと思います」
—林業を営む方から見ると、やはり広葉樹というのは価値がないのでしょうか。
「広葉樹ももちろんお金にはなるのですが、針葉樹に比べて育てるのに時間も手間もかかる=コストがかかるので、基本的には敬遠されがちです。プレゼントツリーは森づくりのための寄付を集めることで、経済的支援も行ってくださっています。そうすると、広葉樹を育てるコストの部分はいただく寄付で吸収することができる。我々がコスト的に難しいなぁと思っていたことが、プレゼントツリーとの協働によって実現できています。また、広葉樹の森づくりに対して寄付してくださる個人や企業の方々が数多くいらっしゃることも知ることができました。最近では生物多様性や気候変動といった問題が取りざたされ、時代が追い風になっているのも感じます」
街と山との交流促進と、多様な森づくりに向けて
—現状の課題を教えていただけますか。
「日本全体での森育ての課題というところは、やはりコストの部分に重きが置かれています。コストを下げて解決する問題がある一方で、最近叫ばれている生物多様性や気候変動への対応についてはコストをかけても広葉樹を育てるとか、今育てているのとは違う種類の樹を育てるとか、そういうことが必要になってくる。そうした活動をどう経済的に担保していくのかを考えた時に、プレゼントツリーの活動はとても意義深いと思っています」
—ありがとうございます。では最後に、今後プレゼントツリーに期待することや一緒にやっていきたいことがございましたら、教えてください。
「そうですね、引き続きたくさんの方を連れて来ていただけたら嬉しいです。都市から人が訪ねてくださるたびに、私も職員もみんな励みになっています。それから、今進めていることでもありますが、より多様な森づくりということを一緒にやってきたいですね。最近は造林学の研究でも、樹を1種類でだけではなく複数種類を同時に植えたり、他の樹も一緒に育てるということが、だいぶ認められてきました。これからもそういう方法をどんどん確立していきたいですし、新しい挑戦的なことにますます取り組んでいけたらなと思います」
—吉田先生、お忙しい中ありがとうございました!
時間がかかる森づくり。だからこそ、粘り強く取り組んでいく
吉田先生にご案内いただいた雨龍研究林内には、2006年にプレゼントツリーで植樹したエリアがあります。17年が経った現在、当時植えた苗木のアカエゾマツは5mほどの立派な樹に成長し、その周りには自然に飛んできた種からミズナラなどが育って、まさに吉田先生のおっしゃる「針広混交林」が広がっていました。
「森づくりというのは非常に時間がかかります。だから、造林学の研究もとても時間がかかる。まだまだわからないこともたくさんあるんです」。人間よりはるかに長生きな樹と、その集合体である森。改めて、森づくりという未来を支える仕事に粘り強く取り組んでいらっしゃる皆様に敬意を表すとともに、プレゼントツリーという都市の人たちが森に関われる仕組みをもっともっと広げていきたい!と、思いを新たにしました。吉田先生、これからもどうぞよろしくお願いいたします!
Yoshida Labo 公式サイト…https://www.yoto-hu-forest.com/
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